千円札のスペクトル

今のお札は偽造防止の一環として、特殊発光インキにより紫外線を当てると表面の印章部分や表裏面の地紋の一部が光るのだそうです。
それならばどのへんの波長の光を吸収して発光するのか…ということで蛍光発光スペクトル、蛍光励起スペクトルを測ってみました。

なお、今回のスペクトルは印章の特殊発光インキ以外の光もいろいろ混ざっているみたいなので、ご利用の際には注意が必要です。また念のため、悪用はされないようお願いいたします(悪用できるようなデータではありませんが)。

浜口研の蛍光分光光度計(日本分光 FP-6500)にて測定。一応蛍光励起スペクトルのみスペクトル補正済。発光スペクトルは補正なし*1。
数値データ(テキスト形式)

測定セットアップ

普段は角セルが入るサンプルホルダーに、単純に千円札を折り曲げてナナメに差し込んで測ってみた。左写真は励起スペクトル測定時のもの。検出器側分光器の入り口には520nmのシャープカットフィルター(Y52)を入れている。発光スペクトル測定時はフィルターなし。

夏目漱石の旧千円札


こんな感じに折り曲げて印章部分に励起光が当たるようにしてみた。

野口英世の新千円札


新札の方が印章パターンの線が太いから光っても明るい。

千円札(印章部分)の発光スペクトル


励起波長:370nm

千円札の印章部分に紫外光(370nm)を当てて、出てきた特殊発光インキから光(蛍光)の強さを波長ごとに描いたスペクトルです。野口英世の新札は印章が太く発光部分が多いこともあって、500~550nmの発光が分かりやすく見えています。夏目漱石の旧札も、バックグラウンドがかなり大きくなっているものの500~550nm付近に新札と大体同じような形の蛍光によるピークが見られました。従って、千円札の特殊発光インキは新札も旧札も同質のものが使われていることが分かります(全く同じ分子であるとは限りませんが)。
なお、旧札でバックグラウンドになっている400~450nm付近や600nm付近のピークはインキによるものではなくたくさんの人が使ったことによる汚れが発光しているのではないかと、のもとは思っています。新札は新品のお札なので汚れの心配はないです。

千円札(印章部分)の励起スペクトル


観測波長:530nm
520nmのシャープカットフィルター(Y52)使用

発光スペクトルでピークがあった530nmで発光強度を測定しながら、励起光の波長を変えていったスペクトルです。どの波長の光を吸収してお札がオレンジ色に光るのかが分かります。つまり、特殊蛍光インクの吸収に対応したようなスペクトルになります。
この結果から、380nmより短い光を吸収して印章は光っていることが分かります。この波長の光は紫外線ですが、それほど短波長ではないのでブラックライトで出すことができます。こうして、ブラックライトを当てるとお札の印章が光ることになります。

水銀ランプで照らすと…


それほど光らない。

左上の白い線が水銀ランプ。水銀ランプは250nmは強力に出ていますが300nm台はそれほど強くもないので、こうやって撮影してもカメラに写るほどには光りません。やはりブラックライトくらいの波長の光でよく光るように設計されているようです。

*1 流石に、お札のスペクトルとるだけのためにわざわざローダミンのエチレングリコール溶液を使って補正プログラム用データを取り直すほど暇でもなかったのですよ…。

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