エンドレスな実験にちょっと疲れてきたので
なんとなくスペクトルシリーズ第8弾の予告編なんて感じのエントリー。
次回のスペクトル色々は、絵の具12色の拡散反射スペクトルです。
白色絵の具って紫外光を見事吸収するんですね…。
絵の具に使われるような白色顔料としては酸化亜鉛や二酸化チタンがあるわけですが、どちらも紫外域に吸収がある物質なのでこのように400nm以下の紫外光領域で反射率がなくなってしまいます。
だから酸化亜鉛や二酸化チタンは日焼け止めクリームに配合されるわけですが。
…ってなわけで、記事の方はこれから鋭意執筆予定。
そのうち公開するので気長にお待ち下さい。
スペクトルシリーズ第7弾。
先日の赤色レーザーポインターがうまくいったので、共立エレショップで 緑色レーザーダイオードモジュールも買って、とりあえず電池につないで光を出してみました。(写真の電池は単1)
緑色レーザーのスペクトルについては「スペクトルいろいろ」の方を見ていただくとして、このレーザーモジュール、このサイズで内部にレーザーダイオードにNd:YVO
さらにこのモジュール。送られてきた段階で5mW以上出たのが、基板の可変抵抗を動かすと夜空に光束が見えるようになるくらいには出力が増えます*2。
532nmで15mWとか出るなら、ひょっとしてもしかするとバンド幅さえ気にしなければ強いバンドならラマン散乱とか測定できてしまいそうな気もしないでもないですね。
まかりまちがって肉眼でラマン散乱光が見えたりはしないかと思って、試しにベンゼンをスクリュー管に入れて横からレーザーを照射しながらアルゴンレーザー用のレーザーゴーグル越しに見てみると、光路が見えました。…ということはどうやら、ベンゼンのラマン散乱なら肉眼で見えるくらいの出力はあるようです。
実は最初は四塩化炭素で試したのですが見えませんでした。
532nm励起のラマン散乱光は1000cm-1で562nmで、アルゴンレーザー用のレーザー保護眼鏡の吸収は550〜560nmくらいから始まります。
ですから800cm-1以下の低波数モードで構成される四塩化炭素のラマン散乱光が見えなかったのは実のところ当然なのでした。
…と、散々遊んだところでこのレーザーユニット、一応本当は実験に使おうと思って買ったものです。
実験用としても、外径が12mmなので何も考えなくても12mmのロッドクランプにぴったりはまるのでとても良い感じで、同時にクロスクランプが放熱ブロック的役割も果たしてくれます。パス調整用には1mWもあれば十分なので、出力調整ができるところもGood。逆に不便なところとしては、このレーザーユニットはどうやらレーザーポインター用らしいので、基板上のボタンを押さないと光らない点でしょうか。
ボタンを押さなくても光るようにちょっと改造しないと駄目そうです。
最後に念のため。
レーザーの出力が仮に目に入ると失明の危険…どころじゃなくて本当に失明します。
もしこのエントリーを見て製作を試す方がいらっしゃいましたら出力光には十分ご注意下さい。
スペクトルシリーズ第6弾。
今回はブラックライト・誘蛾灯・殺菌灯。
ブラックライト・殺菌灯は以前秋葉原で買ったものですが、梅田のヨドバシや大石のコーナンでも普通に売ってます。なんかディスプレーに殺菌灯がセットされていたりするし…(流石に電源は入っていないが)。殺菌灯は普通に売ると結構危ないんじゃないかなぁ…とも思うのだけれど…。
さて、スペクトルについてはケミカルランプとブラックライトが可視域以外は一致しているのが見事。製造段階でガラス壁に可視吸収紫外透過材を塗るか塗らないかの違いなんだろうなぁ…。
あと殺菌灯ですが、のもとの予想以上に普通に水銀灯でした。これなら分光用の低圧水銀灯がなくても紫外可視全域で殺菌灯を使って普通に波長校正できそうだ*1。
そう。普通のラマン測定の際、アキバで売ってるパイロットランプを波長校正用のネオンランプとして使ったりするみたいなもんかな。
結果の詳細は http://t.nomoto.org/spectra/000475.html です。
*1: オゾン臭はしないので、さすがに185nmは出ていないようだ。
以前、「スペクトル色々」でCRTのスペクトルを測ってみたとき、赤色の発光がスパイク状の鋭いピークだったので「これは一体どんな物質のスペクトルなのだろう…」と思っていたわけですが、先日「一家に一枚周期表」を眺めていたら、ユーロピウムの項に「カラーテレビの赤色蛍光体」、「昼光色の蛍光灯」と書いてありました。
そこで化学便覧(改訂5版)を見てみると確かに、I巻の「表5.69 代表的な蛍光・りん光体の特性」という項目(I-p743)にカラーTV用CRTの発光体として青:ZnS:Ag、緑:ZnS:Cu,Au,Al、赤:Y2O2S:Euなんて書いてあります。
ユーロピウムはランタノイドですから、スペクトルにあった鋭いピークはf軌道の遷移だったのですね。
ここで無機化学の教科書を見てみますと、シュライバー曰く、
大部分のランタノイドイオンには色がついていて,固体の錯体中におけるランタノイドイオンのスペクトルは,d金属錯体に比べてはるかに狭くかつ明瞭な吸収バンドを示すのが普通である.これらのスペクトルは弱いf-f電子遷移に関連している.吸収バンドが狭く,また配位している配位子の種類に鈍感なことは,f軌道の動径方向の広がりが,充満した5sおよび5p軌道よりも小さいことを示している.
だそうです。
これはつまり、f軌道は5s,5p軌道よりも深いところにいて化学結合と関係ないので、軌道準位が周りの物質の影響を受けない。その結果スペクトル幅が鋭いということでしょうか*1。
*1: シュライバーの説明は「スペクトル幅が狭い→f軌道が深いところにいる」という順序になっていますね。
なお、「弱い」f-f電子遷移とあるのは、f-f遷移が本来禁制であるからであろうと思います。
他ではあんまり見かけない奇特なスペクトルを公開してみるシリーズ第5弾。
今回は千円札のスペクトル。お札の印章が光るというのを見てから試してみたかったんだよね…。
そんなわけで、博士論文審査が終わったついでに試してみたのでした。(もう2ヶ月以上も前になるのだね。)
本文にも書いたけど、このお札の発光インキ、260nmとかじゃあんまり光りません。励起スペクトルだと結構強度があるように見えますが、現実問題目で見てあんまり光っているようになかったので、300nmより短波長の励起スペクトルはインキとは違うものを見ているような気がします。
なにはともあれ、ブラックライトで光るように作ってるんだなぁ…というのが最大の感想。
結果の詳細は http://t.nomoto.org/spectra/000367.html です。
スペクトルシリーズ第4弾。
水銀・ネオンで校正しようとしたとき*1、ピークと波長の対応づけにいつも苦労してるな…と、ふと思った。
ならば、あらかじめ強いピークの波長が分かってればいいじゃないか…と思って測ってみたのが今回の水銀とネオンランプ。
ついでにUSB分光器の分解能・波長精度の確認もできてしまうというおまけ付き。
ただまぁ、いつものことながらネオンも水銀も発光部を見てしまうと目が疲れる。しかも水銀なんて、点灯するだけでオゾンのにおいがどんどん強くなっていくし…。*2
結果の詳細は http://t.nomoto.org/spectra/000261.html です。
スペクトルシリーズ第3弾。
先週、研究室のうちの部屋で「液晶ディスプレイ/CRTから紫外線は出ているのか!?」ということが話題になったので、ものは試しと測定してみたのでした。
結果はというと…。
400nm以下はほとんど出ていないようです。
そして、USBのファイバー分光器*1を持ってきたついでに蛍光灯やら白熱電球、白色LEDのスペクトルも測ってみたのでした。
結果の詳細は http://t.nomoto.org/spectra/000198.html です。
それにしても、CRTの赤の輝線って一体何なんでしょうね??
*1: Ocean Optics USB2000: 手のひらサイズでUSB給電というとってもコンパクトでこういう時にはもってこいな分光器。ただし高い。
スペクトルシリーズ第2弾。http://t.nomoto.org/spectra/
こんどは色セロファンを測ってみた。
ベンゼン環の有無による紫外域の透過限界の違いを除けば、材質の分光特性的にはポリカラーと比べてすごく違うわけでもなさそうだ。そういうわけで、樹脂の透過色っていうのはこんなふうに可視光で電子遷移が起きる色素を入れてるんだろうなと思ったのだった。
あ、そういえば色ガラスだったらどうなるんだろう?
そういえば先々週ユニバースに遊びに来ていた地文研天文部の恒投担当さんが、近赤外吸収フィルター知りませんか?
…とか言っていたのを思い出し、同時に舞台照明用フィルターの透過率ってどんなもんなんだろう…とも思ったので、ものは試しにと東京舞台照明のカラーフィルター見本帳を買ってきて透過率を測ってみた。
結果は以下のとおり。(まとめはhttp://T.NOMOTO.org/spectra/ )
上のスペクトルは、全フィルターデータの重ね書き。…そして赤外は見事透明、近赤外も基本的に透明。
まぁそういうわけで、このフィルターが照明用として熱にも負けず大丈夫なのは近赤〜赤外をスカスカ通すからなのだな…なるほど。とは思った。
しかし近赤外カットには全然ならんなぁ…。バンドパスには良さそうだけど。
かろうじてNo52やNo61,63が微妙に近赤をカットするくらいか…。*1
自分が近赤外をカットするフィルターとして真っ先に思いつくのはHOYAの熱線吸収フィルターHA-30/50。
見てのとおり、こいつはちゃんと近赤外をカットしてくれる。*2 ただし50x50mm1枚で4000円以上と、安くはない。あとはB-460あたりも使えるか。
ただまぁ、このフィルターの材質であろう熱線吸収ガラスというのは省エネのために建築なんかでも使われているだろうから、ガラスとして探せば見つかるのかもしれないね…とは思ったのだった。あと赤外線反射シート/塗料とか。
生データ、スペクトルなどのまとめページは http://T.NOMOTO.org/spectra/ 。
これまたお試しでクリエイティブ・コモンズ・ライセンスってやつを使ってみた。